幻のDVD、チャットベイカーの「レッツゲットロスト」インポート版、新品、未使用です。
往年の出演映画の抜粋がふんだんに挿入されるので、甘いルックスで人気絶頂期にあった若い頃のチェットに魅力を感じる人には大満足だろう。一方で、ドラッグで身を滅ぼして以降の破滅の半生を本人が振り返るインタビューや演奏風景は、老いてからの彼に魅力を感じる渋い貴方にとっても堪えられない仕上がりだ。
しかし、B.ウェーバーは単にスタイリッシュなドキュメンタリーにこの作品を仕上げなかった。チェットの人生はトラブル・メイカーのそれそのものだったが、女性、金、ドラッグにだらしなく、近隣者には迷惑をかけまくっている。よって家族やかつての愛人のコメントはかなり辛辣で、前歯を失くした有名なトラブルについても、都合の良い話を捏造してるのではないかという指摘もある。音楽だけでなく、他人にsympathyを覚えさせてタカることにも天才的だったという複数の証言はリアルだ。
何十年も戸籍上の妻と子供達、親をアメリカにほったらかしにしつつ、ヨーロッパでジャズを奏でながら別の女性達と暮らすベッカーは、息子が車に轢かれたので連絡がほしいと妻が問い合わせても、冷たく無視したという。彼にとっては家族や愛というものさえ、彼が歌ったラブ・ソングのように儚く短い夢物語でしかなかったようだ。いや、終盤でB.ウェーバーに「ドラッグ無しじゃ、やっていけないんだよ」と凄む老いたチェットにとって、人生そのものがドラッグが見せてくれる儚い夢のようなものだったのかもしれない。
そして、こういうろくでなし振りと同時に、最初に書いたような彼の魅力をいっぺんに見せられてしまうと、観る者にとって「チェット・ベイカー」という男の存在自体が、なんだか儚い幻みたいに思えてしまうのだ。この点で、撮影全体を振り返ったチェットの以下の言葉でインタビューを締めたB.ウェーバーの編集は冴えまくっている。
"It was so beautiful, all those things. It was a dream, you know. Things like that don't happen, just to very few."